「上野動物園の真実」

上野動物園の真実」(http://www.isc.meiji.ac.jp/~w_zemi/zoo.pdf)のタイトルを見ると暴露本のようですが、2009年に明治大学商学部のゼミで書かれた論文だそうです(http://www.isc.meiji.ac.jp/~w_zemi/syougaku.htmからリンクされています)。2009年といえば前年4月にジャイアントパンダのリンリンが亡くなり、そのせいかどうか上野動物園の入園者数が減っていると報じられていたときでした。この論文では当時の園長のインタビューを通して、メディアから受け取る情報との違いを取り上げています。
このインタビュー部分を読むまで、私は上野動物園に対してやや批判的でした。それは主にジャイアントパンダの展示に関することですが、なぜ野生動物保全をほとんどアピールしていないのかという点についてです。絶滅危惧種であることすら積極的に知らせていないので、単なる客寄せにしか見えませんでした。実際にそのことについて、意見を動物園のWebサイトから送ったこともあります。その根底には、入園者数が減って上野動物園が焦っているという思い込みがあったのかもしれません。
この論文によれば、小宮園長(当時)は年間入園者数が300万人でも上野は過密であると語っています。展示動物を他の都立動物園に分散させるなどして、入園者数を意図的に減らしていたというのは意外でした。確かにあまり人が多いと、動物の生態の見学どころではありませんが、そのことを動物園側もわかっていたのですね。この論文では、種の保存を目指した都立動物園・水族館のズーストック計画や、日本固有の飼育に力を入れていることについても取り上げています。つまり、上野動物園全体では決して野生動物の保全をおろそかにしているわけではないのです。
この2009年当時の園長インタビューと比べてみると、今のパンダ人気でにぎわう上野は、本来目指していたものと違うのではないかと思わずにいられません。300万人でも過密なのに2011年度の入園者数は470万人を超えたそうです(東京都のWebサイトには平成22年までの数字しかないので、「上野動物園 入園者数」でGoogle検索した結果です)。
あくまでも私の想像ですが、上野動物園はパンダブームなど望んでいなかったのかもしれません。もちろん、現場のスタッフはどの動物も全力で世話をしているはずですが、展示のしかたを見ると、パンダは別と割り切って、見たい人がいるから見せているという感じがします。マスメディアで話題になっているパンダをひと目見て写真を撮れれば満足する人たちにとって、絶滅危惧種の保護などという難しいことはどうでもいいことだからと。意地悪な見かたかもしれませんが。
上野動物園の真実」は、たまたまWeb検索していて見つけた論文ですが、上野動物園の取り組みに改めて目を向けるよい機会となりました。もちろん私もただ批判するだけでなく、自分に手伝えることがあれば何でもしたいと思います。住んでいるところから一番近い動物園が一番つまらないというのは悲しいことなので。

2012/8/14追記:2011年度の入園者数が東京都のサイトにないと書きましたが、東京動物園協会の「業務に関する資料」のところに施設別入園者数のPDFがありました(http://www.tzps.or.jp/pdf_files/number_of_visitors_2011_apr_to_2012_mar.pdf)。これによれば、上野動物園平成23年4月から24年3月までの累計入園者数は4,707,261人で、前年から2,029,889人(75.8%)の増加だそうです。